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宝永町248番地 第4話 [Wessay]

習字とぬり絵

幼稚園への送迎役はもっぱらばあちゃんだった。たまにお母ちゃんが迎えに来てくれた。
お父ちゃんは仕事が忙しい。じいちゃんは関心がないふりをして将棋を指している。

年長さんの中にいつも近所で遊んでいる仲間はいなかった。
ひとりかふたり同い年の子がいたと思うが、星組にはいなかった。だから幼稚園では幼稚園のともだちをつくった。
園庭は小さなぼくたちには夢のように広かった。車も通らない。遊具もいっぱいある。

何と言っても砂場がある。砂遊びは飽きない。
トンネルを掘って、向こう側のお友達と手をつないだときの感触。
四角い箱や丸い筒に砂を詰めて、それをひっくり返して造るカタチ。
鉄棒や滑り台などの空中戦よりも地べたにしゃがんでコツコツと何かをつくるのがいい。

お習字のときはばあちゃんがぼくの後ろについてくれた。
二人羽織のような格好で一緒に筆を持ち、ぼくの右手を誘導してくれる。
ときには全く逆の方向に誘導される。その不自然な挙動は好きじゃなかった。

でも真っ黒い墨で白い大きな紙を汚すのは楽しかった。
ばあちゃんはあまり楽しそうじゃなかったが一所懸命に手伝ってくれた。
後始末のことを考えて服や習字道具をなるべく汚さないように注意していたのかもしれない。

でもぼくは習字よりもぬり絵が得意だった。
クレヨンで自由に絵を書くよりも、色鉛筆で細かく塗り分けるのが好きだった。
コツも自分で掴んだ。

まずは濃く縁取りをするのだ。色はもちろん好きなのを自由に選ぶ。
塗るべき場所ごとに縁取りをしたら、その中の白い部分を薄くていいから均一に手早く塗りつぶす。
どんな小さな箇所でも同じ手法をとる。

題材はもっぱらウルトラマンかウルトラセブンだ。テレビで見るものと言えば、ぼくにはこれしかなかった。
ぼくはウルトラマンの格好良さよりも、断然宇宙人や怪獣になぜだか強く惹かれた。
それらに情動を揺さぶられ、未知のものへの想像力をかき立てられた。

怪獣たちはみな強烈なインパクトを与え、ぼくの頭の中の印画紙にくっきりと結像していた。
宇宙人や怪獣の細部の色まで覚えていた。だけど12色の鉛筆ではどうしても思い通りの出来にならなかった。
戦略だと認識はしていなかったはずだが、ぼくは次から次へと何冊ものぬり絵ノートを完成させ、間もなくすべての鉛筆をちびさせた。

そしてぼくは24色セットの色鉛筆を手に入れることに成功した。

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