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宝永町248番地 第61話 [Wessay]

チキンライス

宝永町商店街は市の中心部から少し離れている。
繁華街までは子どもが歩いていくにはちょっと遠すぎるというくらいだ。
放浪癖のあるぼくには当てはまらないけれど。

地方都市の唯一の繁華街のことを下町の人は”マチ”とか”お町”と言っていた。
町に行くということは少しだけ特別なこととされているようだった。
だから、おとなに連れられて町に行くときは”よそ行き”の服を着せられた。

いつも駆けずり回って遊んでいるぼくたちの普段着は、
あちこち擦り切れたり、汚れが染み付いていたりするので、それはよくわかった。
さすがにこれでははずかしいとぼくも思った。

今日はふみちゃんのおばあちゃんが買い物に連れて行ってくれるという。
もちろん、ふみちゃんも一緒だ。マサヒロと妹も行くのでかなり大勢だ。
カリヤばぁは行かないらしい。
お母ちゃんに着せてもらった、よそ行きの服は小洒落ていて、どこかくすぐったかった。

「ふみちゃーん、準備できたよー。早く行こう。」

妹を連れて玄関口で叫んだ。

「はいはい。ちょっと待っててね。」

おばあちゃんの返事が小さく聞こえたと思ったら、二階からマサヒロとふみちゃんが降りてきた。
ふたりもやっぱり”よそ行き”を着ている。
おばあちゃんは奥の部屋からでてきて、ジーコロジーコロと電話をかけはじめた。
ハイヤーを呼ぶのだ。

居間に上がらせてもらって待っていると、間もなく表から「プップー」という音が聞こえた。
表に出るとハイヤーが方向指示器をチカチカさせて停まっていた。
それにぼくたち一行が乗り込もうとしていると、ヨシムラのおばちゃんが、

「今日はどこ行き?」

と誰に向けてでもなく声をかけてきた。

「ちょっとオマチまで。」

ふみちゃんのおばあちゃんが代表して答えてくれた。

ぼくは前の席に座りたかったけど、それでは全員乗れなくなるというので、
おばあちゃんが前に乗り、ぼくたち子ども四人は全員、後部座席に並んだ。

車で行くと”マチ”はあっという間に着く。
中央公園の前に停車したハイヤーから、ぼくたちは巣箱から飛び立つハトのように躍り出た。
目の前にはおそらく街中で一番高いビルだと思う大きなデパートが聳え立っている。

ここがぼくたちの目的地だ。
おばあちゃんにとっては買い物をする場所。ぼくたちにとっては遊ぶところだ。
そう、デパートの屋上には遊園地があるのだ。
その楽しみがあるのでお買い物の間はみな大人しくしていた。
おもちゃ売り場に行きたいという言葉も我慢して飲み込んだ。

「よし、買い物終わったから屋上へあがろうか。」

エレベーターに乗り込むとお姉さんがぼくたちに向かって笑いかけてくれた。
ぼくたちもついつい釣られてニヤニヤしてしまう。
その顔を見て、お姉さんは行き先階が大体わかったようだった。

屋上に着くとおばあちゃんはテントの下のテーブル席に腰掛けて一息入れた。
ぼくたちはさっそく小さな遊園地に向かった。
低い柵で囲われた中を自由に運転できる電気仕掛けのゴーカートに乗りたいんだけど、
まだぼくたちは乗っちゃいけないらしかった。

しかたなく、まずは皆でミニ鉄道に乗車した。
屋上の敷地の半分くらいをぐるっと一周する。
一番外側に差し掛かると金網越しに街中を見渡せたが高くてちょっと怖かった。

と、不意に一羽のアゲハが風に吹き上げられて空に舞った。

「あ、ちょうちょ。」
「こんな高いところまで飛べるんだ。」

橙色をしたチョウはキラキラと光の粒をまきながら、また風に流されて遠くに消え去った。

それから今度はめいめい好きな乗り物を探した。
乗り物といっても硬貨を入れると一定の時間、ただ上下に動くだけの代物だ。
マサヒロはパトカー、ふみちゃんはウサギ、ぼくはダンボにした。
妹はぼくが終わるのをそばで待っていた。

何種類か乗ったら、テントの下に呼び集められた。
休憩所にある売店では軽食やソフトクリームや飲み物が売られていて、
おばあちゃんはすでにレモネードをあらかた飲み終わっていた。

そのほぼ空になったガラスのコップを見た瞬間、喉が渇いたなぁと気がついた。
するとふみちゃんが大きな声で、

「オレンジジュース飲みたいーっ」

とおばあちゃんにおねだりした。

「ぼくも」
「ぼくもーっ」

おばあちゃんにお金をもらって、売店にみんなで走った。
カウンターの脇にある機械の上についた、透明のプラスチックのケースの中で、
オレンジジュースは噴水のように吹き上がっていた。

「さっきのちょうちょみたいね。」
「えー、チョウはきっとおいしくないと思うよ」
「そうじゃないよ」

みんなでテーブルのところまで戻り、ストローでオレンジジュースをゆっくりすすった。

「ほらぁ、みんなちょうちょみたいだよ」
「あ、そうか」
「ははは」
「うふふふふ」

妹もなんとなく分かったみたいで笑っていた。

ジュースを飲み終わる頃には今度はお腹がすいてきた。もうお昼だ。
ぼくたちはおばあちゃんに連れられて、掘っ立て小屋のようなレストランに入った。

そしてみんなでチキンライスを注文して食べた。

ChikenRice1.jpgPhoto by ASHINARI
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コメント 2

yosi

ご訪問&nice!ありがとうございます。
by yosi (2009-09-25 08:55) 

がぁこ

チキンライス最高~~☆
オムライスもいいけどシンプルなチキンライスっていうのは通ですね~
上に乗ってるグリンピース、、小さい頃は食べれなかったけど
今はないとチキンライスと認めません(笑)
by がぁこ (2009-09-25 12:33) 

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